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岡山地方裁判所津山支部 昭和63年(ワ)55号 判決 1989年9月26日

原告(反訴被告)

中村量一

被告(反訴原告)

田上

主文

一  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一三一〇万三八六九円及びこれに対する昭和六〇年七月五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく不法行為による損害賠償債務が第一項の金額を超えて存在しないことを確認する。

三  当事者双方のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを三分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(本訴)

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1 原告(反訴被告。以下単に「原告」という。)の被告(反訴原告。以下単に「被告」という。)に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく不法行為による損害賠償債務が、金三五三万九五七四円を超えて存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1 事故の発生

別紙事故目録記載のとおり(以下「本件事故」という。)

2 責任

原告は、被告に対し、不法行為に基づき、本件事故に起因する損害を賠償する責任がある。

3 損害 金一〇九六万九七七一円

本件事故に起因する被告の損害は次のとおりである。

(一) 治療費 金一九〇万八五九一円

昭和六〇年七月四日(通院実日数一日) 日本原病院自昭和六〇年七月四日至昭和六一年三月三日(入院二四三日) 西川整形外科医院

自昭和六一年三月三日至昭和六一年六月二二日(入院一一二日) 津山中央病院

自昭和六一年六月二三日至昭和六二年七月二日(通院実日数二七日) 津山中央病院

自昭和六一年八月二九日至昭和六二年七月二日(通院実日数六六日) 角田医院

自昭和六一年九月八日至昭和六二年七月二日(通院実日数七〇日) 内田整形外科

(二) 看護料 金四七万一四九六円

家政婦付添費 金四六万八二九六円

自昭和六〇年七月五日至昭和六〇年八月二五日

近親者付添費 金三二〇〇円

昭和六〇年七月四日

(三) 通院交通費 金四二万二七二〇円

タクシー代

(四) 入院雑費 金二一万二四〇〇円

600×354=212,400

(五) 休業損害 金四一万八五二三円

被告の職業は田七反を耕作する農業であるが、税務申告はなされていない。岡山県の水稲生産農家の所得は一〇a(一反)当たり五万九七八九円であり、被告の場合七反の田を耕作しているので年収は金四一万八五二三円となる。

(六) 傷害慰謝料 金二〇〇万円

(七) 後遺障害慰謝料 金三六七万円

(八) 後遺障害逸失利益 金一八四万九六四一円

後遺障害等級併合七級(八級七号、一二級一二号)

労働可能年数一三年

418,523×0.45×9.821=1,849,641

(九) 装具費 金一万六四〇〇円

(損害合計 金一〇九六万九七七一円)

(一〇) 損害填補 金七四三万〇一九七円

4 本件事故による原告の被告に対する損害賠償債務は既払金を除き金三五三万九五七四円であるが、被告は右損害額に納得せず、更に、トイレ汲取り費用、屋根葺替え費用等の請求をしている。

5 よつて、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める次第である。

二  請求原因に対する認否

1 1及び2は認める。

2 3のうち、(一)乃至(三)は認め、その余は争う。

3 4のうち、被告が原告主張の損害賠償額に納得せず争つていることは認め、その余は争う。

(反訴)

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金三六八〇万円及びこれに対する昭和六〇年七月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1 被告は、本件事故により、原告運転の車に衝突されて、後記の傷害を被つた。

2 本件事故は、原告運転の車両が反対車線に進入して、そこに対向してきた被告運転の車両に衝突して生じたもので、原告の全面過失によるもので、被告には何等の過失がないものであるから、原告は被告に生じた損害の全部を賠償すべき責任がある。

3 被告の傷害および損害

被告は、本件事故により左大腿骨骨折等の傷害を被り、別紙損害目録記載のとおり治療を受け、昭和六二年七月二日に症状が固定したが、左下肢関節機能の全廃、左下肢機能の全廃、左下肢に頑固な痛み、頭痛を残す後遺障害が残つて、現在も苦しんでおり(治療も受けている)、その治療及び損害の状況は別紙損害目録記載のとおりである。

4 よつて、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金三六八〇万円及びこれに対する不法行為の翌日である昭和六〇年七月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 1は認める。

2 2のうち、本件事故が原告の全面的過失によるとの点を争い、その余は認める。

3(一) 3のうち、被告が左大腿骨骨折等の傷害を被つたこと、昭和六二年七月二日症状が固定したこと、被告の後遺障害等級が七級と認定されたことは認め、その余(但し、損害は後記のとおり)は不知。

(二) 損害については以下のとおり認否する。

(1) 治療費 認める。

(2) 傷害慰謝料 金二〇〇万円の限度で認める。

(3) 将来の治療費 否認する。

乙第二号証の宮本医師の見解からも明らかなように、被告の生活状態がよければ一生置換術をしなくてもよいものであり、本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

(4) 装具費 金一万六四〇〇円の限度で認める。

ベツド購入は医師の指示に基づくものではなく、単に被告が楽ということで買つたものであり、保険会社の承諾を得たものでもない。したがつて、本件事故と相当因果関係ある損害ではない。

(5) 入院付添費 認める。

(6) 入院雑費 金二一万二四〇〇円の限度で認める。

(7) 診断書料 否認する。

(8) 通院交通費 認める。

(9) 必要交通費 否認する。

(10) 通院付添費 否認する。

被告は、松葉杖を使用してではあるが一人でバスに乗れるのであり、通院付添費は不要である。

(11) 車両購入費 否認する。

(12) 休業損害 農業収入として年収が金四一万円であることは認め、その余は否認する。

<1> 骨董品販売の手伝いの日当について

被告が大松という骨董品屋へ手伝いに行つたのは昭和五七年の一年間だけであり、しかも大松という骨董品屋は死亡しており、被告が本件事故当時大松で働くことは可能性が全くない。

<2> 親戚、知人の農作業の手伝いの日当について

いずれも定期的にある仕事ではなく、しかも乙第九号証の一乃至四は本件訴訟提起後作成されたもので、本件事故と相当因果関係ある損害とはいえない。

<3> 自宅に関する出費の節約のための作業について

いずれも家屋における日常家事の範囲内の作業であり、夫婦、兄、弟、子等家族が協力して行うもので、被告ができないときは妻が行えるものもあるし、そうでないものは一般には業者に依頼して行つているものであり、本件事故による損害とは認められない。

(13) 後遺症慰謝料 金三六七万円の限度で認める。

(14) 後遺症逸失利益 金一八四万九六四一円の限度で認める。

(15) 弁護士費用 不知。

(16) 入金について 損害填補額は金七四三万〇一九七円であり、被告主張の金二四万二七〇〇円、金二三万九〇〇〇円も当然損害額から差引かれるべきである。

(証拠)

記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生及び被告の受傷は当事者間に争いがない。

二  原告の責任について

右争いない本件事故の態様に鑑みれば、原告が、本件事故に関し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことは明らかである。原告は、本件事故がその全面的過失によることを争うというも、被告に何等か本件事故発生について過失があつたと認めるべき証拠はなく、したがつて、原告には後記検討の被告の本件事故による損害の全てを賠償する責任がある。

三  被告の蒙つた損害について検討する。

1  次の損害は当事者間に争いがない。

(一)  治療費 金一九〇万八五九一円

(二)  入院付添費 金四七万一四九六円

(三)  通院交通費 金四二万二二七〇円

2  傷害慰謝料について

傷害の態様、入院日数、実通院日数、治療期間等諸般の事情を勘案して、金二一〇万円を相当と認める。

3  将来の治療費について

右のような費用も、その支出の蓋然性が高い場合には、その請求を肯認すべきものと考えられる。

しかして、弁論の全趣旨により成立が認められる乙二号証並びに証人神田国雄の証言及び被告本人尋問の結果(第一回)を総合すれば、確定的な断定はできないものの、被告の年齢、症状等からみて、七年前後経過すれば、再度人工骨頭置換術が必要になる可能性が強いこと、現在で右費用は金二〇〇万円位であることが認められる。

右によると、将来右費用が必要となる蓋然性は高いものと考えざるを得ない。しかして、これを現在請求として認めるとすれば、将来価格から中間利息を控除すべきところ、右価格が不明であるのでその方法には拠れない。しかし、医療費の経年的な上昇を考慮すれば、前記現在価額の金二〇〇万円を現在請求として認容すれば然るべきものと考えられる。

したがつて、右金二〇〇万円を肯認すべきである。

4  装具費について

松葉杖、簡易便器等医師の指定で購入した装具費金一万六四〇〇円が損害であることは、当事者間に争いがない。

ベツド購入費金九万三〇〇〇円について検討するに、一般に、交通事故による受傷のため日常生活の挙措に支障が生じるようになつた場合には、その支障を緩和乃至除去するため、社会通念上相当と認められるような設備物品等の入手に必要な費用は、なお右事故と相当因果関係ある損害と認めるべきものと解されるところ、本件においては、被告は左下肢関節機能等に重い傷害を負つたものであること前記乙二号証及び成立に争いない乙一七号証の一乃至三並びに被告本人尋問の結果(第一、二回)により明らかと認められるところ、右のような状態の被告が布団での起居に相当の不如意を感ずるであろうことは推察に難くなく、被告がベツドで起居することを求めるのは蓋しやむを得ないところというべきものであつて、右ベツドの購入費はこれを損害と認めて然るべきものと考えられる。

してみると、装具費は、合計金一〇万九四〇〇円を肯認すべきである。

5  入院雑費について

一日金六〇〇円を相当とし、入院日数三五四日分で、金二一万二四〇〇円を認める。

6  診断書料について

弁論の全趣旨により成立が認められる乙一六号証の一・二及び被告本人尋問の結果(第一回)により、金七〇〇〇円を認める。

7  必要交通費について

被告本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立が認められる乙四号証によると、被告主張の各費用を要したことが認められるところ、右各外出、移動は、必要性の肯認できるものであるうえ、被告の後遺症を残しての症状固定(昭和六二年七月二日。この点は当事者間に争いがない。)直後のことであり、その直前の通院治療期間にタクシーの利用が相当であつたという以上、右各移動等に付きタクシーを使用したことが相当でなかつたとは言い難い。右交通費用金三万七〇二〇円は、本件事故による損害と認めるべきである。

8  通院付添費について

弁論の全趣旨により成立が認められる乙五号証及び被告本人尋問の結果(第一回)によると、被告の通院治療中八一日間、その妻が付添つたことが認められる。

しかして、前記乙一七号証の一乃至三及び被告本人尋問の結果(第一回)により認められる被告の症状等に鑑みると、被告の妻の通院付添いが不相当であつたとはいい難く、その付添料としては一日金一六〇〇円の限度で認めるのが相当である。したがつて、この費用は合計金一二万九六〇〇円を肯認すべきである。

9  車両購入費について

弁論の全趣旨により成立が認められる乙二六号証の一乃至三及び被告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故以前は自動二輪車を運転していたが、本件事故の後遺症のため右車両の運転が不能となり、日常生活上支障を生じていること、右支障の解消のため被告においても運転可能な小型特殊自動車(金八〇万円相当)を購入しようとして同額の支出を近々する心積りであることが認められる。

しかして、このような出費も本件事故なかりせば免れ得たものと考えられるうえ、被告の後遺症等の状況に鑑みてあながち不相当なものともいえない。しかしながら、右小型特殊自動車というも、前記各証拠によれば、身体障害者用に特別の仕様がなされているものでもなく、要するに農耕用車両の一種であるというのであり、原告方が農家であることなどを考慮すると、右車両の購入により、却つて利便を得ることとなる場面があるであろうことは否定することができない。結局、本件事故と相当因果関係ある損害としては、金四〇万円の限度で肯認するのが相当である。しかして、右支出の近接性からして右金額についてはこれを現在請求できるものというべきである。

10  休業損害について

(一)  被告の年間農業収入が金四一万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  被告本人尋問の結果(第一回)及びこれにより成立が認められる乙九号証の一乃至四によれば、被告は、竹内直江方に、昭和五八年には農繁期の農作業手伝いに一二日、昭和六〇年には納屋瓦葺き替え作業手伝いに九日、農作業手伝いに五日、藤原茂夫方に、昭和五八年には農作業手伝いに一八日各赴き、各一日当たり一万円の日当を得ていたこと、なお、他にも若干の作業手伝いをしていたことが認められる。

しかして、右手伝いによる日当収入は、右認定のところからすると、かなり不定期的なものであり、安定性のある収入であつたということはできない。しかし、被告が本件事故による就労不能の状態になければ、右のような手伝い収入をある程度得ていたであろうことは否定し難い。したがつて、右検討の結果に鑑み、控えめに算定して、一日当たり金一万円で年当りで一〇日分の合計金一〇万円を肯認する。

(三)  被告本人尋問の結果(第一回)によると、被告は、本件事故以前は自ら自宅のし尿処理をしていたことが認められる。

しかして、右処理作業は経済的価値のあるものであつて、被告が本件事故による就労不能の状態になければ、右作業を自ら行い、右価値相当の利益を得ることができたものと考えられる。

そして、弁論の全趣旨及びこれにより成立が認められる乙一五号証の一乃至六により、右作業を金銭に換算するに、年当たり三万二四〇〇円(一回当たり五四〇〇円相当の作業を年に六回するものとして。)と認めるのが相当である。

(四)  骨董品売却の仲介収入については、被告本人尋問の結果(第一回)によれば、被告がこのような収入を得ていたのは昭和五七年のことであり、また、仲介依頼者であつた大松某は昭和五八、九年に死亡していると認められるのであるから、後記被告の就労不能期間中に、被告が右仲介収入を得たであろうとは考えられない。

(五)  被告の自宅造作作業は、被告本人尋問の結果(第一回)によれば、全て本件事故以前に済んでいることと認められ、本件事故による障害なかりせば、後記被告の就労不能期間中に右と同様の作業をして、それ相当の利得を上げ得たであろうかについては、これを肯認するに足りる証拠はない。

(六)  被告の本件事故による就労不能期間は、被告の傷害の程度や治療状況に鑑み、受傷時から症状固定時までの二年間と認められる。

(七)  したがつて、被告のこの間の休業損害は、合計金一〇八万四八〇〇円(前記(一)乃至(三)の二年分)となる。

11  後遺症慰謝料について

被告の後遺障害等級が七級であることは当事者間に争いなく、また、前記乙一七号証の一乃至三及び被告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨により認められる被告の後遺症の程度、生活状態等諸般の事情をも考慮し、金七五九万二〇〇〇円(当時の自賠責後遺障害等級表第七級保障金額の八割)が相当と認める。

12  後遺症逸失利益について

五四万二四〇〇円(年収)×〇・五六(労働能力喪失率)×九・八二一(症状固定時五四歳の就労可能年数一三年のホフマン係数)=二九八万三〇六九円が相当である。

四  損害の填補について

証人神田国雄の証言及びこれにより成立が認められる甲一、二号証によると、被告の本件事故による損害につき、金七一五万三七七七円の填補がなされていることが認められる(被告は、損害填補額については一応原告の主張((金七四三万〇一九七円))を認めるも、計算違い等あること判明せばこの限りにあらざる趣旨の答弁をするので、自白の成立はこれを認めず、証拠により認定することとする。)。

なお、被告は、原告が被告に直接支払つたという主張の金額につき、両者間で損害賠償の内入れとしない旨の合意があつたと主張し、被告本人尋問の結果(第一回)中には、これに沿う部分があるが、このような賠償の実質的な二重取りを許容する如き合意が真に成立していたかについては、原告本人尋問の結果にも対比し、俄に肯認できない。

したがつて、右認定の金額を填補額として損害から控除すべきである。

五  弁護士費用について

本件事案の態様、認容額等諸般の事情を考慮し、金八〇万円が相当である。

六  以上のとおりであるので、民訴法八九条、九二条本文、一九六条一項をそれぞれ適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤拓)

事故目録

(一) 日時 昭和六〇年七月四日午後〇時三〇分ころ

(二) 場所 勝田郡奈義町上町川一六四四番地の二先国道

(三) 加害車両 普通乗用自動車(岡山五〇き四五一)

運転者 中村量一(原告)

(四) 被害車両 自動二輪車(奈義町い五一六)

運転者 田上(被告)

(五) 態様 右日時・場所において、原告運転の加害車両が反対車線に進入して、対向する被告運転の被害車両に衝突したもの。

(六) 被害程度 左大腿骨頸部骨折、頭部、左膝挫創等

損害目録

(一) 治療費 金一九〇万八五九一円

入院

西川整形外科医院

六〇・七・四から六一・三・三(入院二四三日)

津山中央病院

六一・三・三から六一・六・二二(入院一一二日)

通院

日本原病院

六〇・七・四(通院一日)

津山中央病院

六一・六・二三から六二・七・二(通院二七日)

角田医院

六一・八・二九から六二・七・二(通院六六日)

内田整形外科医院

六一・九・八から六二・七・二(通院七〇日)

(二) 慰謝料 金二二〇万円が相当

以上の入院、通院中の慰謝料

(三) 将来の治療費 金二〇〇万円

被告の左大腿骨頸部骨折により、現在人工骨頭置換術を行なつているが、将来、それが消耗した場合には再手術しなければならなず、その費用は右金額と見込まれている。

これも、本件事故と相当因果関係のある損害である。

(四) 装具費 計金一〇万九四〇〇円

本件事故のため、松葉杖、簡易便器など医師の指定により購入させられた装具の費用 金一万六四〇〇円

ベツド購入費 自宅で寝起きするのに畳に寝ていると本件の傷のため起き上がることが困難であつたので、原告の代理人である保険会社の承諾を得て購入した。 金九万三〇〇〇円

(五) 入院付添費 計金四七万一四九六円

近親者付添 昭和六〇年七月四日 金三二〇〇円

家政婦付添 昭和六〇年七月五日から昭和六〇年八月二五日まで、付添いを依頼して支払つた額 金四六万八二九六円

(六) 入院雑費 金三五万四〇〇〇円

入院一日につき金一〇〇〇円とするのが相当である。

一〇〇〇円×三五四日=三五万四〇〇〇円

(七) 診断書料 計金七〇〇〇円

津山中央病院から昭和六二年一月二二日と同年二月一六日に各金三五〇〇円の診断書を得て身体障害者認定のために官庁に提出した。

(八) 通院交通費 金四二万二二七〇円

タクシーに乗らねば通院できない症状であつたので、タクシーを利用した。そのタクシー代である。

(九) 必要交通費 計金三万七〇二〇円

被告は、昭和六二年七月六日に本件事故による治療の診断書を保険会社の求めに応じて医療機関までタクシーに乗つてもらいに行き、交通費金六九六〇円を要した。

また、被告は、昭和六二年八月三日に伯父の死の初盆の法事に津山市に来ざるを得ず、タクシーに乗らざるを得なかつたが、そのタクシー代として金四五四〇円を要した。

更にまた、同日、被告は、運転免許証書替の手続のために、勝英警察署にタクシーで行つた(タクシー代金五五二〇円)が、本件身体障害があるので運転免許証書替の許可が出せるかどうか県警本部に行つてもらわないとわからないと指示され、同月八日岡山市の県警本部にタクシーで行つた(タクシー代は特に安く請け負つてもらつて、金二万円)。これも、本件事故による障害がなければ要することのなかつた出費であるから、損害に入るべきものである。

(一〇) 通院付添費 金二五万九二〇〇円

被告が通院するのに、湿布などの医療品を多数もらうので、被告はそれらの荷物を持つことができないし、医院のドアを開けることもできないので、通院した八一日について被告の妻が付き添わざるを得なかつた。

一日について金三二〇〇円とするのが相当であるから、

三二〇〇円×八一日=二五万九二〇〇円

(一一) 車両購入費 金八〇万円

被告は、本件事故当時自動二輪車に乗つていたように、二輪車に乗つて移動するのを常態としていた者であるが、本件事故のため足が不自由となつて通常の装備の車には乗れないものとなり、身体障害者用の特殊の車にしか乗れないことになつた。そのため、金八〇万円以上かけて身体障害者でも乗れる特殊の車を購入せざるを得ないことになつたもので、少なくとも金八〇万円の損害を被つたものである。

(一二) 休業損害 金七二〇万円

被告は、本件事故の少し前は、次の仕事をしていた。

(1) 農業

田七反を耕作しており、平均推定年収金四一万円であつた。

(2) 骨董品売却の仲介等

津山市川崎の大松という骨董品を販売していた者からの依頼により(毎日ではなく、同人から手伝つてくれと頼まれた時に)、骨董品販売の交渉などをし、日当及び売却できた時の報酬を得ていたが、平均して年収金一二〇万円くらいを得ていた。

(3) 親戚、知人などからの依頼により、農繁期の田の農作業、山林の木の枝打ち、下刈などの作業をして日当を得ていた。これが、年に三〇日くらいあり、日当一日一万円くらいであつたので、これによる年収は年金三〇万円。

(4) 自宅に関する出費の節約のための作業

被告は、昭和五七年頃から約三年をかけて、自宅の周囲の土台を石で固める作業を自ら行なつた。この作業は、一年のうち半年くらい行なつていたので、業者に依頼すれば日当一日一万円くらい要するものであるから、年に金一八〇万円節約したことになるから、被告の稼働により、被告が金一八〇万円の収入を得たのと同じことになる。

また、被告は、昭和五九年一一月一五日から同年一二月二九日まで、自宅の周囲にブロツク塀を建造する(冬に風が強いので、風よけのためにかなり高い塀を作つた。)作業を業者に金一〇〇万円で発注したが、その業者から手伝つてくれと頼まれて、手伝つた。これにより、請負代金が金七五万円に減額してもらえた。これも、被告の稼働により、被告が金二五万円の収入を得たのと同じことになる。

また、被告は、昭和五九年に、自宅の屋根瓦の色をはけで塗る作業を自ら行なつた。この作業は、一週間くらい行なつたので、業者に依頼すれば日当一日金一万円くらい要するものであるから、金七万円節約したことになるから、被告の稼働により、被告が金七万円の収入を得たのと同じことになる。

また、被告は、自宅の便所の汲取りを自分でして、畑に運んでいたのであるが、本件事故のため、この作業を業者に依頼せざるを得なくなり、その費用が毎月金五四〇〇円、年に金六万円以上要するようになつた。このことは、被告が事故前は被告の稼働により年金六万円の収入を得ていたのと同じことになる。

以上を単純に合計すると、金四〇九万円(月金三四万円余り)であるが、被告の収入の算定としては、単純に合計するわけにもいかない面もあるので、控えめに、月金三〇万円の収入であつたと主張するものとする(被告の事故時の年齢五二歳の全国平均月収は金三九万九一〇〇円であるのに比しても月金三〇万円の主張は控えめであるので、妥当なものである。)。

被告は事故日から症状固定までの丁度二年間仕事ができなかつたので、休業損害は、

三〇万円×二四か月=七二〇万円

(一三) 後遺症

左下肢関節機能の全廃、左下肢機能の全廃、左下肢に頑固な痛み、頭痛を残す後遺障害が残存し、自賠責保険で七級と認定された(労働能力喪失率五六%)。

(1) 慰謝料 金八〇〇万円

症状固定後も治療は継続せざるをえない状態で、今日までにその治療費として金七万四六二〇円を、タクシー代として金七万四六二〇円を要していること、痛みが継続しているので痛み止めの薬を服用せざるを得ず、そのために胃も悪くなつているなどの事実も考慮して金八〇〇万円が相当である(日弁連の七級についての基準額は、金六七〇万円ないし金八三六万円であるのに照らし。)。

(2) 逸失利益 金一九七九万九一三六円

前記被告の平均月収三〇万円×一二×労働能力喪失率〇・五六×九・八二一(固定時五四歳の就労可能年数一三年のホフマン係数)=一九七九万九一三六円

(一四) 弁護士費用 金一〇〇万円

当面手数料として金一五万円支払つたが、成功報酬を加えて本件事故との相当因果関係の範囲内の額として金一〇〇万円が相当である。

以上損害合計 金四四五六万八一一三円

(一五) 賠償に対する入金 金六九四万八四九七円

被告が直接受けとつていない額もあるので被告としてはよくわからない部分もあるが、原告主張の額は保険会社が計算したものであるので、現在のところ次に記載する額を除き、信用して認めておく(計算に誤りがあることが判明すれば後日訂正申立する。)。

原告から被告が直接に見舞金として受取つた額金二四万二七〇〇円、及び、昭和六一年三月一八日から昭和六二年四月一四日まで被告の妻が看護のため付添つたことに対して見舞金として受取つた額金二三万九〇〇〇円があるが、これらは、原告が本件損害賠償の内入れとしないと確約したものであるから、賠償に対する入金とならないので、原告主張の支払い額から差し引く。

差し引き損害残額 金三七六一万九六一六円

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